エゴを貫くことは優しさなのか グッバイレーニンを見た
グッバイレーニンを見ました。
ベルリンの壁崩壊が1989年、映画公開が2003年なので単純計算で青春の真っ只中に怒涛の時代の変化を経験した世代が三十代になった頃なわけですね。ドイツでは歴代興行記録を更新したほど大ヒットしました。
あらすじは簡単に言うと、東ドイツに暮らす主人公アレックスとその家族。母のクリスティアーネは夫が西ドイツに亡命した反動から社会主義になりますが息子が隠れて反体制デモに参加している現場に遭遇し、ショックで8ヶ月間意識不明に。その間にベルリンの壁は崩壊し東西ドイツ統合も時間の問題になっていました。もう一度ショックを受ければ命の保証は無いと医師から宣告されたアレックスは旧東ドイツ時代の家具や食品をかき集め、東ドイツが存在し続けているように誤魔化すことを決める。
とにかくね、アレックスだけが必死なんですよ。誤魔化すのに。姉とか恋人は真実を言うべきだって思ってるんですけどアレックスの必死さに半ば呆れて諦めてる感じ。
このアレックスの異常なまでの母の存在に対する執着っていうのは幼い頃に父に捨てられた経験とそれによって一時期母が壊れた時計のように口を利かなくなってしまった経験があると思います。また母が自分を忘れてしまうあの痛みを味わうなんて耐えられないんですよ。誰だってそうじゃないですか。誰が好き好んで自分の存在を否定されたいと願うんですか。これはアレックスが弱いとか姉が強いとかそういう問題じゃなくて。
しかし父は本当は家族を捨てたのではなく、家族一緒に亡命するつもりだったのだと、父はそのために一人で最初に行ったのだと知り、父と再会してアレックスの考えが少し変わってきます。それまで頑なに東ドイツと西ドイツの断絶した母が知っている世界を守ってきたのが、ベルリンの壁は壊れ、東ドイツに希望を求めた西ドイツの人々が大量にやってきた偉大なる東ドイツを作り上げようとしていきます。
嘘のニュースを作り、アレックスが作った存在しない東ドイツを信じ続けた中でクリスティアーネは亡くなります。
最後まで彼は真実を告げなかったんです。アレックスが作り上げた世界の中でクリスティアーネは永遠に生き続けます。
見た後になんともいえないもやもやとした感情に包まれました。これは....究極のマザコンの話だ...。ほんとにこれはどこにそんな根拠があるのかって話なんですけど、男性はみんな結局マザコンだとか言われるじゃないですか。きっと女性と男性だと感じ方にものすごく差が出る作品だと思います。認知症の親を抱えてる方はアレックスにもっと感情移入するんじゃないかなあ。私は幸運にもまだ両親祖父母とも健康で年の割には頭もしっかりしてますが子どもの頃によく可愛がってもらってた大叔母が近頃呆けが入ってきたみたいで私のことがわかる時とわからない時があります。大叔母とは祖父が亡くなった時に揉めたようで(小さかったからよく覚えてないし聞いたらいけない雰囲気がある)それ以来あんまり関わってこなかったんですけどそれでもやっぱり自分を忘れられるっていうことは辛いことですね。それがもし祖母だったら、と想像するだけで泣きそうになりました。母は自分の事がわからなくて近所の子どもだと思われてたとしてもそのフリをしているようなものだったんだな、アレックスは。人口呼吸器を外すか外さないかの二者択一を迫られてるみたいな辛さがあります。
うう書いてて辛くなってきた。ただ映画自体はお涙ちょうだいの作りになっていないので見やすいと思います。見終わった直後よりも後からじわじわくるので朝とか午前中に見るのがお勧めです。
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なんとなくこれを思い出したのでペタ